「かごめかごめ」と音の魔法陣
「ハウルの動く城」より。星の子(流れ星)の魔力と死への衝動について前回でお話ししました
結界を巡らせて炎を囲い、炎の力を奪い取る。
かごめかごめのイメージは鬼を囲む結界あるいは魔法陣、鬼に宿る炎は星の子の命であり、逆に炎を宿した鬼の肉体は星の子に捧げられた生け贄と考える事ができるでしょう。
かごめかごめでは、鬼に名前を当てられた「後の正面」の子供が新たな鬼となり、その代わりに元の鬼は結界の一部としてその魂が再生されます。かごめかごめには他の遊びにあるような明確なゴールはなく、日が暮れて子供たちが家に呼び戻されるまでただひたすら命の循環が繰り返されます。
この構図は、囲炉裏を囲む食卓での命を燃やして魂をいただく作法や、日本各地の祭りに伝えられているどんど焼きの儀式にも通じるところがあります。食材(生け贄)の魂は囲炉裏を囲む人々の血肉となって再生し、またどんど焼きでは旧年中に背負った災いを火にくべて神々とともに空に送り返して、その代わりに新たな年の無病息災を授かります。
ともに命あるいは災いを人の輪で囲むその光景は、星の子が魔力を囲う魔法陣の効力を再現しているのかもしれません。
舞台の中心で炎を奏でるファゴット奏者と、その周囲を囲む伴奏オーケストラ。炎を迸らせる薪束にソリストは音楽に魂を吹き込みます。そしてその周囲を星の子が結界を巡らせて炎を囲うオーケストレーションは、音=魂の誕生、そしてその死と再生を統べる魔法陣のような役割を果たしているのではないでしょうか。
楽器から放たれる音は、その一瞬のみ魂を吹き込まれ、そしてすぐにその残響だけを残して消えていきます。音楽は、それが美しく奏でられる一瞬のみ命を得て、そして地上に降り立ったとたんに消えて行く星の子の命のようなものなのかもしれません。
ファゴットとオーケストラのための協奏曲「炎の資格」では、4本のファゴットから生まれた小さな火種が、やがて周囲の音魂を巻き込み大きな炎となり激しく舞い踊り、そして火が消え入るような独奏ファゴットの音で幕を閉じます。炎はいつしか燃え尽き、そして炎の熱量を受け止めたオーケストラもまたいつかは燃え尽きて、炎を失った体はまた新たな魂の再生を待つ。
薪の束は炎=命を宿らせるか?そして音の結界となるオーケストラはその命を受け止めることができるか?
皆様ぜひとも演奏会会場で、オーケストラと一緒に「炎の資格」を確かめていただければと思います。
注)写真はベルリンフィルのコンサートホール。ピアノを中心としてオーケストラと観客が全周を囲う配置となっています。すべての人の意識が円の中央に集中したとき、その中心ではどのような空気の密度になっているのでしょうか・・
注)映画「ハウルの動く城」ではあまりはっきりと描写されていませんでしたが、原作では主人公のソフィにも実は魔力がそなわっているとされています。その魔力は「ものに命を吹き込む力」です。映画の最後でカルシファーがハウルの心臓から離れても生き続けられたのを不思議に感じるところですが、確かその直前に「カルシファーが千年生き続けますように」とハウルの心臓に祈りを捧げているシーンがありましたね・・・
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