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2014年11月21日 (金)

死の予感

ご存知の通り、日本は長寿の国として知られています。。以前厚生省が発表したデータによると、2012年の日本の平均寿命は男性79.6歳、女性86.4歳でした。この数値を全世界で比較してみると、女性に関しては世界1位の長寿、男性では世界5位だとのこと。やはり長寿国ですね。そういえば、病院での仕事のときも70歳の女性を診るときには「あー、お若いですねー」などとついついお声をかけてしまうくらいです。

さて、ブラームスが生きていた1800年代後半、平均寿命はどのくらいだったと思いますか?

なんと、世界の平均ではおよそ30歳、ヨーロッパ主要国では50歳前後だったと言われています。もちろん疫病や乳児死亡も多かった時代であるため平均値をとるとどうしても低くなるのでしょうが、やはり現代に比べて非常に寿命が短かい時代であったことがわかります。ちなみにベートーヴェンは56歳、シューマンは46歳、ドボルザークは62歳で世を去っています。

ブラームスの交響曲第1番は、着想から完成まで、なんと21年の歳月をかけて作られました。21年ということは、当時の平均寿命の約半分弱をこの曲に費やしてきたような感覚であったのではないでしょうか。

そして、この曲の完成時においてブラームスは42歳。平均寿命が50歳の時代におけるこの年齢は、おそらくは少しずつ自分の「死」を意識する歳であったのではないかと想像します(実際にはブラームスは63歳で世を去りました)。

この曲、特に1楽章の中には「死」をイメージさせるモチーフが所々にみられます。

例えば50小節目の弦楽器ユニゾン

https://www.youtube.com/watch?v=n9C5nkWwPxk 3分25秒ころ

(高い)ラ♭→(低い)シ (高い)ファ→(低い)ラ♭

この音の動き。なにか不穏な、不吉な響きがします。
この音の組み合わせは、減七の和音という構成音をつかったフレーズであり、減七の和音とは、苦悩、悲しみ、死を示唆する表現として使われる音形です。

もうひとつ、これは1楽章の中に普遍的に現れるリズムテーマです。

♪♪♪ ♩ (タ・タ・タ、ター)というリズム。

https://www.youtube.com/watch?v=9Ij6I_zhBdU 9分45秒ころ

この形、どこかで見たことありませんか?世界で一番有名なあの交響曲の冒頭で奏でられるアレ。

そう、ベートーヴェン交響曲第5番「運命」のテーマ、「運命の動機」というリズムモチーフです。「何かがやってくる」ことを示唆するモチーフ。

何がやってくるのか?誰が近づいてくるのか?

だ・れ・だ? 

だ・れ・だ? 

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そう。それは、苦悩や悲しみのイメージを背負って扉を叩き、誰もがいつしか必ず向き合わなければならないもの。その半生、いや人生の大半をかけて作り上げた作品の中に、テーマとして自分の「死」を盛り込んでいたであろうことは容易に想像ができます。

1楽章の中に埋め込まれた死のモチーフ。しかしその中にも時折、魂が救われたような安寧に満ちたメロディが聞こえます。次回は、ブラームスの魂の救いとなっていたであろうモチーフについて考えてみましょう。

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